カスタマーサクセスの本おすすめ11選|青本・赤本から実務書まで目的別に解説

カスタマーサクセス本 ビジネス用語

「カスタマーサクセスを任されたけれど、何から学べばいいのか分からない」——そんな戸惑いを抱えたまま、書店やAmazonの検索結果を眺めて手が止まってしまう人は少なくありません。カスタマーサクセスは比較的新しい職種で、社内に教えてくれる先輩がいないケースも多いからです。

本記事では、業界で「青本」「赤本」と呼ばれる定番2冊を軸に、初心者向け・実務向け・マネージャー向けといった目的別に読むべき書籍を整理しました。書籍情報は出版社サイトなどの一次情報で確認しています。さらに、本を読んだだけで終わらせず実務に接続するための読み方のコツもあわせて解説します。

カスタマーサクセスとは何か

サブスクリプション時代に生まれた「伴走型」の顧客対応

カスタマーサクセスとは、顧客が自社のプロダクトを使って成果(=成功)を出せるよう、企業側から能動的に働きかける活動と組織を指す概念です。売って終わりではなく、契約後こそが本番だという発想に立ちます。

この考え方が広がった直接のきっかけは、ソフトウェアの提供形態がパッケージ販売からSaaS(クラウド経由の継続課金型サービス)へ移行したことでした。買い切りであれば売った時点で売上が確定しますが、月額・年額課金では顧客が使い続けてくれない限り収益が積み上がりません。だからこそ、企業は顧客の利用状況をデータで把握し、つまずく前に手を打つ必要が生まれたのです。

カスタマーサポートとの違い

よく混同されるカスタマーサポートとの違いは、「受動的か能動的か」で整理すると分かりやすくなります。

比較軸 カスタマーサポート カスタマーサクセス
起点 顧客からの問い合わせ(受動) 企業側からの働きかけ(能動)
目的 問題の解消・不満の解消 顧客の成果創出・継続利用
主な指標 応答時間、一次解決率、満足度 解約率、継続率、LTV、アップセル額
組織の位置づけ コストセンターと見なされやすい 収益に貢献するプロフィットセンター
時間軸 発生した事象への対応 契約前後から更新までの長期伴走

サポートが「困った人を助ける窓口」だとすれば、カスタマーサクセスは「困る前に伴走するパートナー」です。この違いを腹落ちさせるところが、書籍で学ぶ最初のステップになります。

カスタマーサクセスの本が求められる背景

買い切り型からサブスクリプション型への転換

ビジネスモデルの転換が、そのまま学習ニーズを生んでいます。ソフトウェアだけでなく、自動車、産業機械、コンテンツ配信、さらには飲食まで、あらゆる業種で継続課金型のサービスが増えました。Zuora創業者のティエン・ツォ氏は、この潮流を「サブスクリプション・エコノミー」と名づけ、モデルを転換した企業が高い成長率を実現していると論じています。

継続課金型では、収益の計算式が「単価×契約数」から「単価×契約数×継続期間」に変わります。継続期間という変数を伸ばす担い手が必要になり、その役割がカスタマーサクセスに割り当てられた、という構図です。

解約率(チャーンレート)低下とアップセル・クロスセルによる収益貢献

解約率のインパクトは、複利で効いてくる点に怖さがあります。仮に月次解約率が5%なら、単純計算で1年後に残る顧客はおよそ54%です。これが3%に下がれば約69%、2%なら約78%が残ります。わずか数ポイントの差が、1年後には20ポイント以上の開きになるわけです。

新規獲得だけで穴を埋め続けるのは、コスト面でも組織の体力面でも現実的ではありません。だからこそ、既存顧客の継続率を引き上げ、さらにアップセル・クロスセルで単価を伸ばすカスタマーサクセスが「守り」ではなく「攻め」の機能として位置づけられます。

国内での普及状況——伸びているのは実務、遅れているのは認知

国内の実態を示すデータとして、バーチャレクス・コンサルティングが2025年3月に公表した「カスタマーサクセス日本市場動向&実態調査」があります。全国の有職者64,138人を対象にした調査で、次のような結果が報告されています。

調査項目 結果
「カスタマーサクセス」を聞いたことがある 21.9%
言葉の意味まで理解している 2.8%
企業トップ層で「聞いたことがない」 78.6%
認知者の勤務先に担当部署・担当者がいる 49.5%
サブスク商材を扱う企業の取り組み率 76.4%
業種別の取り組み率トップ(IT・デジタル関連) 58.8%

注目したいのは、社会全体の認知が2019年からほぼ横ばいである一方、サブスク商材を扱う企業では4社に3社が既に取り組んでいるという二極化です。つまり、現場では急速に実務が立ち上がっているのに、経営層を含めた共通言語がまだ整っていない。社内で企画を通すにも、まず自分が言語化できる状態になる必要がある——書籍需要が根強い理由はここにあります。

必読の2冊「青本」「赤本」

カスタマーサクセス業界では、表紙の色から2冊の定番書が「青本」「赤本」と呼ばれています。どちらも英治出版から刊行されており、タイトルも似ているため混同しやすいのですが、書かれた視点がまったく違います。

青本:『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』

項目 内容
著者 ニック・メータ、ダン・スタインマン、リンカーン・マーフィー
訳者 バーチャレクス・コンサルティング株式会社
出版社 英治出版
発売 2018年6月
ページ数 368ページ

著者のニック・メータ氏は、カスタマーサクセス支援ソフトウェアを提供する米Gainsight社のCEO。同社は顧客の利用状況をスコア化する「ヘルススコア」という概念を広めた企業としても知られます。

本書の核は、タイトルにもある「10の原則」です。適切な顧客に売る、顧客が何をもって成功と考えているかを把握する、価値提供までの時間(Time to Value)を短縮する——といった、実務の判断基準になる原理原則が並びます。日本でカスタマーサクセスという言葉が一気に広がったのが2018年で、本書はその起点となった一冊です。なおGainsightはその後、PLG(プロダクト主導型成長)やCS Opsといった新しい潮流を反映した「新・10の原則」も公開しており、旧版と読み比べると業界の変化そのものが見えてきます。

原理原則を体系的に押さえられる反面、翻訳書ならではの米国SaaS前提の記述も多く、初読ではやや骨が折れると感じる人もいます。

赤本:『カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」』

項目 内容
著者 弘子ラザヴィ
出版社 英治出版
発売 2019年7月

著者の弘子ラザヴィ氏は、日本企業のカスタマーサクセス導入を支援するサクセスラボの代表。本書は日本の読者に向けて書き下ろされた一冊で、リクルート、メルカリ、Sansanといった国内企業の事例が登場します。「Sansan カスタマーサクセス 本」といった検索が一定数あるのも、この本の事例紹介がきっかけであることが多いようです。

特徴的なのは、カスタマーサクセスの本質を『サザエさん』の三河屋の三平さんになぞらえて説明している点です。抽象的な横文字が並びがちなテーマを、日本のビジネスパーソンの感覚に落として説明してくれるため、青本より読みやすいという評価が定着しています。

どちらから読むべきか

タイプ おすすめ 理由
これから概念を知りたい 赤本→青本 日本の事例と比喩で全体像をつかんでから原則へ
すでに配属が決まり実務が始まる 青本→赤本 判断基準となる原則を先に頭に入れる
経営層・他部門を説得したい 赤本 国内事例が説明材料として使いやすい

2冊とも手元に置くのが理想ですが、1冊だけ選ぶなら「立場」で決めるのが現実的です。

目的別おすすめ本

全体像から入りたい初心者向け

『THE MODEL(MarkeZine BOOKS)マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』(福田康隆/翔泳社/2019年1月)は、カスタマーサクセス単体ではなく、マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスを一連のプロセスとして描いた一冊です。著者はオラクル、セールスフォース、マルケトでのキャリアを持ち、分業ではなく「共業」であるという主張を軸に、部門間の連携設計を解説しています。カスタマーサクセスが商談プロセスのどこに接続するのかを理解したい人に向いています。

『サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方』(アン・H・ジャンザー/小巻靖子訳/英治出版/2017年11月/256ページ)は、「所有から利用へ」という変化を、マーケティングの視点からやさしく解説した入門書です。カスタマーサクセスという言葉が前面に出ないぶん、非IT業界の人にも読みやすい構成になっています。

実務ノウハウを学べる本

『完全版 カスタマーサクセス実行戦略』(山田ひさのり/翔泳社)は、2020年の初版、2021年の増補改訂版を経て内容を拡充した最新版です(増補改訂版は2021年11月刊、完全版は2023年刊、全258ページ)。サブスクリプションビジネスにおける顧客との関係性、世界の先進事例から導く戦略、テクノロジーによるスケール、組織と人材、そしてCS Ops・カスタマーマーケティング・テクニカルサポート・PMMといった周辺機能まで、章立てが実務の悩みどころに対応しています。版が3つあるため、購入時は「完全版」かどうかを確認しておくと安心です。

『カスタマーサクセス・プロフェッショナル――顧客の成功を支え、持続的な利益成長をもたらす仕事のすべて』(アシュヴィン・ヴァイドゥヤネイサン、ルーベン・ラバゴ著/弘子ラザヴィ訳/英治出版/2021年3月/288ページ)は、Gainsightのメンバーが書いた実務ハンドブックです。原書タイトルが示すとおり、カスタマーサクセスマネージャーという職種に必要なスキルと日々の動き方に焦点を当てています。青本が「なぜやるか」なら、こちらは「どうやるか」の書です。

マネージャー・責任者向けの本

『カスタマーサクセス経営――顧客に成功と優れた体験(CX)を届けるプロダクト主導型成長(PLG)戦略』(ミッキー・アーロン、ニック・ボンフィーリオ著/弘子ラザヴィ訳/2022年7月)は、原書が2018年に米国で刊行された「元祖PLG本」の翻訳です。プロダクト自体が顧客獲得と拡大を牽引するPLG戦略を、カスタマー体験(CX)の設計、組織横断の連携、成功を測る指標まで含めて解説しています。部門単位の改善ではなく、全社の成長戦略としてカスタマーサクセスを位置づけたい責任者向けの一冊です。

『企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営』(西口一希/日経BP/2022年6月)は、カスタマーサクセス専門書ではありませんが、経営そのものを顧客起点に組み替えるという視点を提供します。組織全体で顧客を理解する体制をどう作るかという論点は、CS部門が単独で孤立しがちな企業ほど示唆が大きいはずです。

ビジネスモデルへの理解を深める本

『サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル』(ティエン・ツォ、ゲイブ・ワイザート著/桑野順一郎・御立英史訳/ダイヤモンド社/2018年10月)は、サブスクリプション管理プラットフォームZuoraの創業者が書いた一冊。アドビ、ネットフリックス、コマツなど業種を横断した事例で、なぜモデル転換が起きているのかを説明します。カスタマーサクセスが必要とされる「そもそも」を押さえたい人に適しています。

顧客満足度・ロイヤルティを学べる本

『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』(遠藤直紀、武井由紀子/翔泳社)は、ビービットの経営陣によるNPS(推奨度)実践書です。ロイヤルティ指標の測り方、ドライバー要因の特定、カスタマージャーニーマップへの落とし込み、経営指標との接続までを扱います。ヘルススコアやNPSを社内で設計する段階に入ったCS担当者にとって、指標運用の教科書になります。

目的別まとめ表

目的 書籍 発売年
原理原則を体系的に 青本『カスタマーサクセス』 2018年
日本企業の文脈で理解 赤本『カスタマーサクセスとは何か』 2019年
営業プロセス全体を把握 『THE MODEL』 2019年
概念を平易に導入 『サブスクリプション・マーケティング』 2017年
実行計画に落とす 『完全版 カスタマーサクセス実行戦略』 2023年
CSMの職務スキル 『カスタマーサクセス・プロフェッショナル』 2021年
経営・PLG戦略 『カスタマーサクセス経営』 2022年
顧客起点の組織改革 『顧客起点の経営』 2022年
ビジネスモデル理解 『サブスクリプション』 2018年
指標設計・NPS 『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』 ―

本を実務に活かすための読み方

自社のフェーズに合わせて選ぶ

同じ良書でも、自社のフェーズが違えば役立ち方は変わります。

フェーズ 課題 優先して読む本
立ち上げ期(担当者数名) 何をKPIにするか決まっていない 青本・赤本で原則と指標の考え方を固める
拡大期(チーム化) 業務が属人化し、対応品質がばらつく 『実行戦略』『プロフェッショナル』で型を作る
成熟期(複数部門連携) 部門間で顧客情報が分断されている 『THE MODEL』『カスタマーサクセス経営』

立ち上げ期にいきなりPLGの高度な話を読んでも実装できませんし、逆に拡大期に入ってから概念書だけを回し読みしても現場は動きません。「今ボトルネックになっている問いは何か」を1行で書き出してから本を選ぶと、無駄が減ります。

米国SaaS前提の記述を自社に翻訳する

翻訳書の多くは、ARR数十億円規模の米国SaaSを暗黙の前提にしています。カスタマーサクセスマネージャー1人あたりの担当社数、ヘルススコアの設計、タッチモデル(ハイタッチ/ロータッチ/テックタッチ)の切り分けなどは、事業規模や顧客単価が違えばそのまま使えません。書かれた数値をそのまま持ち込むのではなく、「この施策が成り立っている前提条件は何か」を抜き出して自社に当てはめ直す作業が要ります。

本以外の情報源と組み合わせる

書籍は体系性に優れる一方、刊行時点で情報が固定されます。生成AIの活用のように動きが速い領域では、本だけでは追いつきません。前掲のバーチャレクス調査では、カスタマーサクセス導入企業の約8割が顧客対応領域で何らかの形でAIを導入・活用しており、うち約3割は「大部分でAIを活用」と回答しています。こうした最新動向は、支援企業が公開するホワイトペーパー、セミナー、実務者コミュニティ、各社の公開事例などで補うのが現実的です。

読み方としては、書籍で判断の軸を作り、最新情報で具体策を更新するという役割分担が扱いやすいでしょう。

まとめ

カスタマーサクセスの学習は、業界で青本・赤本と呼ばれる2冊から始めるのが定番ルートです。原理原則を体系化した青本『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』(ニック・メータ他/英治出版/2018年6月)と、日本企業の文脈で解説した赤本『カスタマーサクセスとは何か』(弘子ラザヴィ/英治出版/2019年7月)は、どちらから読んでも構いませんが、立場によって最適な順序が変わります。

そのうえで、営業プロセス全体の理解には『THE MODEL』、実行計画への落とし込みには『完全版 カスタマーサクセス実行戦略』、職務スキルには『カスタマーサクセス・プロフェッショナル』、経営視点には『カスタマーサクセス経営』や『顧客起点の経営』、指標設計には『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』というように、目的別に選ぶと投資対効果が高まります。

国内では、サブスク商材を扱う企業の76.4%が既にカスタマーサクセスに取り組む一方、言葉の意味まで理解している人は全体の2.8%にとどまります。この認知ギャップこそが、書籍で学んだ言葉を社内の共通言語に変えていく担当者の役割を大きくしています。自社のフェーズと目の前のボトルネックを言語化したうえで、まず1冊を選んでみてください。

タイトルとURLをコピーしました