カスタマージャーニーとは?マップの作り方・BtoB事例・ファネルとの違いを解説

カスタマージャーニー マーケティング戦略

「カスタマージャーニーマップを作ってみたものの、結局使われずに眠っている」——そんな経験を持つマーケティング担当者は少なくありません。カスタマージャーニーは顧客理解を深め、施策の抜け漏れを発見するための強力なフレームワークですが、作り方を誤ると社内の憶測を可視化しただけの資料で終わってしまいます。この記事では、カスタマージャーニーの基本的な意味から、マップの具体的な作成手順、BtoBならではの注意点、ファネルやペルソナとの違いまでを整理して解説します。

カスタマージャーニーとは

顧客体験を「旅」にたとえる考え方

カスタマージャーニー(Customer Journey)とは、顧客が商品やサービスを認知してから、興味・比較検討を経て購入し、その後の利用・継続・推奨に至るまでの一連の体験プロセスを指す言葉です。顧客が企業と関わりながら進んでいくプロセスを「旅(ジャーニー)」に見立てているのが名前の由来です。

重要なのは、カスタマージャーニーが単なる「行動の順番」ではないという点です。各フェーズにおける顧客の行動(何をしたか)、思考(何を考えたか)、感情(どう感じたか)、そしてタッチポイント(企業とどこで接触したか)をセットで捉えるのが基本的な考え方になります。

たとえばBtoBのSaaSであれば、以下のような流れが典型的な旅路です。

フェーズ 顧客の行動 主なタッチポイント
認知 課題に気づき検索する 検索エンジン、SNS、広告、セミナー
興味・情報収集 解決手段を調べる ブログ記事、比較サイト、ホワイトペーパー
比較検討 複数社を比較する 資料請求、料金ページ、導入事例、口コミ
購入・導入 稟議を通して契約する 商談、見積書、トライアル
利用・継続 実際に使う サポート、活用ガイド、コミュニティ
推奨 他社にすすめる レビュー投稿、紹介、登壇

AIDMA・AISASなど購買行動モデルとの関係

カスタマージャーニーの考え方は、マーケティングの世界で長く使われてきた「購買行動モデル」の系譜の上にあります。代表的なモデルを比較すると、時代とともに顧客の行動がどう変化したかが見えてきます。

モデル プロセス 特徴
AIDMA Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動) マスメディア時代のモデル。消費者は情報を受け取る側
AISAS Attention→Interest→Search(検索)→Action→Share(共有) 2004年に電通が提唱。ネット上での「検索」と「共有」を組み込んだ
5A Aware(認知)→Appeal(訴求)→Ask(調査)→Act(行動)→Advocate(推奨) コトラーが『マーケティング4.0』で提示。オンラインとオフラインを統合し、推奨まで射程に入れる

AIDMAは消費者が受け身であることを前提にしていましたが、AISASでは自ら検索し、購入後に情報を共有する能動的な消費者像が描かれました。さらに5Aでは、最終ゴールを「購入」ではなく「推奨(Advocate)」に置いている点が大きな特徴です。

カスタマージャーニーは、これらのモデルを土台にしつつ、自社の顧客に合わせてフェーズを自由に定義できる点が異なります。決まった型に当てはめるのではなく、実際の顧客の動きに合わせて設計するフレームワークだと理解しておくとよいでしょう。

「古い」「意味がない」と言われる理由と、今も有効な理由

検索キーワードを見ると「カスタマージャーニー 古い」「カスタマージャーニー 意味ない」といった調べ方をしている人が一定数います。批判の中心にあるのは、次のような論点です。

  • 顧客の行動は直線的ではない:スマートフォンとSNSの普及で、顧客は認知と検討を何度も行き来する
  • チャネルが複雑化しすぎた:接点が増えすぎて、1枚の図にまとめきれない
  • 企業側の願望が入り込む:「こう動いてほしい」という理想の導線になりがち
  • 作って終わりになる:資料としては存在するが、施策に接続されていない

こうした指摘の背景としてよく引き合いに出されるのが、Googleが2020年に公表した「パルス型消費」と「バタフライ・サーキット」という概念です。パルス型消費は、スマートフォンを操作している最中に瞬間的に購買意欲が高まり、その場で購入まで至る行動を指します。バタフライ・サーキットは、情報を広げる「さぐる」行動と、納得を深める「かためる」行動を、蝶が舞うように行き来する探索パターンを指す概念です。いずれも、認知から購入まで一直線に進むという前提が現実と合わなくなっていることを示しています。

ただし、これは「カスタマージャーニーが不要になった」という意味ではありません。むしろ次のような使い方であれば、現在も有効です。

  • 顧客の代表的なパターンを把握し、体験の全体像を共有する道具として使う
  • 完璧な予測図ではなく、仮説を検証するための出発点として扱う
  • 行き来(往復)や離脱を前提に、直線ではなくループを含む形で描く
  • データやインタビューで定期的にアップデートし、固定化させない

「一度作れば正解が得られる図」ではなく「顧客理解を組織で共有し、改善を回すための共通言語」と位置づけるのが、現実的な向き合い方といえます。

カスタマージャーニーマップとは

作成する目的・メリット

カスタマージャーニーマップとは、カスタマージャーニーを1枚の図として可視化したものです。縦軸にフェーズ、横軸に行動・思考・感情・タッチポイント・課題などの項目を置いて整理するのが一般的な形式です。

作成するメリットは、主に4つに整理できます。

メリット 内容
顧客理解の深化 企業目線ではなく、顧客が何に迷い何を感じているかを起点に考えられる
社内の認識統一 マーケティング・営業・カスタマーサクセスなど部門をまたいだ共通言語になる
施策の抜け漏れ発見 接点が薄いフェーズ、フォローが途切れている箇所を特定できる
KPIの明確化 フェーズごとに測るべき指標を定義でき、施策の評価軸が揃う

とくにBtoBでは、マーケティング部門が獲得したリードを営業が扱う際に「顧客の状態認識がずれている」という問題が起こりがちです。マップはこのズレを可視化し、部門間の議論を具体化する効果があります。

マップの型(タイムライン型・ホイール型・スペース型)

カスタマージャーニーマップには、目的に応じて使い分けられる代表的な3つの型があります。

形状 向いている用途
タイムライン型 時間軸に沿って左から右へ展開 認知から購入までの流れを整理する。最も汎用的
ホイール型 円環状に循環を表現 サブスクリプションやリピート購入など、継続利用が前提のビジネス
スペース型 物理的な空間の動線を表現 実店舗・施設・展示会など、場所ごとの体験を整理したい場合

BtoBのリード獲得から受注までを整理するならタイムライン型、SaaSの継続利用とアップセルを設計するならホイール型、展示会ブースの体験設計ならスペース型、といった選び方になります。まずはタイムライン型から着手し、必要に応じて他の型を検討するのが現実的です。

カスタマージャーニーマップの作り方・手順

ゴールとペルソナの設定

最初に決めるべきは「何のために作るのか」というゴールです。「Webサイト経由の問い合わせを増やす」「導入後の解約率を下げる」など、対象範囲と目的を絞り込みます。ここが曖昧なまま作り始めると、あらゆる顧客のあらゆる行動を書き込もうとして破綻します。

次に、旅の主人公となるペルソナを設定します。BtoBの場合は、企業属性(業種・従業員規模・売上規模)と担当者属性(役職・部門・課題・情報収集手段・決裁権の有無)の両方を定義するのがポイントです。

このとき重要なのが、ファクトベースで作るという原則です。既存顧客へのインタビュー、営業担当へのヒアリング、アクセス解析データ、問い合わせ内容の分析といった実データを土台にします。社内の想像だけで組み立てたペルソナは、その後の全工程を歪めてしまいます。

フェーズ・タッチポイントの整理

続いて、ペルソナがゴールに至るまでのフェーズを定義します。「認知→興味→比較検討→購入→利用→推奨」が基本形ですが、自社の商材に合わせて調整します。たとえば高額なBtoB商材なら「社内合意形成」「稟議・決裁」といったフェーズを独立させると実態に近づきます。

各フェーズで、顧客が企業と接触するタッチポイントを洗い出します。

区分 タッチポイントの例
オンライン 検索結果、オウンドメディア、比較サイト、SNS、Web広告、メルマガ、ウェビナー、口コミ・レビュー
オフライン 展示会、セミナー、営業訪問、電話、DM、紹介、業界誌

ここでは自社が管理している接点だけでなく、比較サイトや口コミなど自社の管理外にある接点も必ず含めてください。顧客の判断に大きく影響しているのは、しばしば自社が触れられない場所にある情報です。

行動・思考・感情の可視化

フェーズとタッチポイントの枠ができたら、各セルを埋めていきます。

  • 行動:具体的に何をしたか(例:「〇〇 比較」で検索し、3社の資料をダウンロードした)
  • 思考:何を考えたか(例:「料金体系がわかりにくい。結局いくらかかるのか」)
  • 感情:どう感じたか(例:期待→不安→安心)

感情は、山谷の折れ線グラフとして描くと課題が見つけやすくなります。感情が落ち込む箇所(ペインポイント)こそが、改善のインパクトが大きい場所です。「料金がわからず問い合わせを躊躇した」「導入初期に使い方がわからず放置した」といった谷を特定できれば、打つべき施策は自ずと見えてきます。

施策への落とし込みとKPI設定

マップの最終行には、必ず「課題」と「施策」、そして「KPI」の行を設けます。可視化して終わりにしないための仕組みです。

フェーズ 課題 施策 KPI
認知 課題を自覚した段階で自社が想起されない 課題起点のSEO記事を拡充 自然検索セッション数
比較検討 料金の不透明さで離脱 料金シミュレーターと事例ページを設置 料金ページの直帰率、資料請求数
稟議 担当者が社内を説得できない 稟議用の説明資料・ROI試算シートを提供 商談化率、受注率
利用 導入直後に使われず放置 オンボーディング設計、活用ウェビナー 初期定着率、解約率

このようにフェーズ単位でKPIを紐づけておくと、「どのフェーズがボトルネックか」をデータで議論できるようになります。

BtoBとBtoCにおけるカスタマージャーニーの違い

BtoBの特徴(複数人の意思決定、検討期間の長さ)

BtoBのカスタマージャーニーは、BtoCとは前提が大きく異なります。

比較項目 BtoC BtoB
意思決定者 基本的に本人1人 複数人(担当者・上長・情報システム・法務・決裁者など)
検討期間 数分〜数週間 数か月〜1年以上、大型案件では数年に及ぶことも
判断基準 好み・感情の比重が大きい 費用対効果、社内説明のしやすさ、リスクの低さ
ゴール 購入・リピート 契約・導入定着・更新・アップセル

BtoBの購買に関与する人数について、Gartnerの調査では1件の購買に平均6〜10人程度が関与するとされ、近年はさらに増加傾向にあるという報告もあります。また同社の調査では、顧客が検討期間中にサプライヤーの営業と直接接触している時間は全体の約17%にとどまるとされています。つまり、購買プロセスの大半は営業が見えない場所で進んでいるということです。

この事実は、BtoBのカスタマージャーニー設計において決定的に重要です。営業が接触できない時間帯を埋めるのは、Webサイト、導入事例、比較コンテンツ、口コミといった情報資産だからです。

具体例

BtoB SaaSにおける、担当者と決裁者の二重構造を意識したジャーニーの例を示します。

フェーズ 担当者(起案者)の状態 決裁者の状態 有効な施策
課題認識 業務の非効率に困っている まだ関与していない 課題解決型のSEO記事、業界レポート
情報収集 解決手段を検索・比較 未関与 ホワイトペーパー、比較記事、ウェビナー
社内共有 上長に相談する 初めて話を聞く 社内共有しやすい要約資料、同業種の導入事例
比較検討 2〜3社に絞り込む 費用対効果を確認 ROI試算、トライアル、セキュリティチェックシート
稟議・決裁 稟議書を作成 最終判断 稟議テンプレート、他社導入実績、サポート体制の説明
導入・定着 現場に展開 効果を確認 オンボーディング支援、活用レポート

BtoBのジャーニーでは、「担当者に響く情報」と「決裁者に響く情報」が別物であることを前提に設計する必要があります。担当者は業務効率という現場の言葉で動きますが、決裁者は投資対効果とリスクの言葉で判断するためです。

関連概念との違い

ペルソナとの違い

ペルソナとカスタマージャーニーは混同されやすいものの、役割が明確に異なります。

項目 ペルソナ カスタマージャーニー
表すもの 「誰か」(人物像) 「どう動くか」(体験の流れ)
時間軸 静的(ある時点の像) 動的(時系列の変化)
主な内容 属性、課題、価値観、情報収集手段 行動、思考、感情、タッチポイント

両者は対立するものではなく、ペルソナが先、ジャーニーが後という順序関係にあります。誰の旅路を描くのかが決まっていなければ、ジャーニーは描けません。

マーケティングファネルとの違い

マーケティングファネルは、認知から購入に向かって人数が絞り込まれていく様子を逆三角形で表したモデルです。カスタマージャーニーとの違いは、主に視点と扱う情報にあります。

項目 マーケティングファネル カスタマージャーニー
視点 企業側のマクロな視点 顧客側のミクロな視点
主に表すもの 各段階の人数・転換率 顧客の行動・心理・感情
形状 逆三角形 時系列の帯、円環など
得意なこと ボトルネックの定量把握 顧客体験の質的な理解

両者は競合する概念ではなく補完関係にあります。ファネルで「どこで人が落ちているか」を定量的に把握し、ジャーニーで「なぜ落ちているのか」を質的に理解する、という併用が実務的です。

サービスブループリント・ユーザージャーニーマップとの違い

サービスブループリントは、1980年代後半にリン・ショスタック氏が提唱したとされる、サービス提供のプロセスを可視化する図です。顧客の行動に加えて、顧客から見える「フロントステージ」の対応と、顧客からは見えない「バックステージ」の業務、さらに支援プロセスまでを描きます。カスタマージャーニーマップが顧客側の体験を描くのに対し、サービスブループリントはそれを支える社内オペレーション側まで踏み込む点が違いです。カスタマージャーニーマップの「第2部」と位置づけられることもあります。

ユーザージャーニーマップは、特定の製品やサービスを使うユーザーの体験に焦点を当てた図です。カスタマージャーニーマップが認知前から購入後の推奨までを広く扱うのに対し、ユーザージャーニーマップはプロダクト利用中の体験やUI/UXの改善を主眼に置くことが多い、という使い分けがなされます。

CX(顧客体験)は、これらの図が表現しようとしている対象そのものです。CXは顧客が企業と関わる中で得るすべての体験を指す広い概念で、カスタマージャーニーマップはCXを可視化・設計するためのツールという関係になります。

作成時の注意点・よくある失敗

カスタマージャーニーマップが機能しない典型的なパターンと、その対処を整理します。

1. 企業側の憶測や願望で作ってしまう

最も多い失敗です。「こう動いてほしい」という理想の導線を書いた結果、実際の顧客行動と乖離します。顧客インタビュー、営業へのヒアリング、アクセス解析、問い合わせ内容など、必ずファクトを土台にしてください。

2. 最初から細かく作り込みすぎる

すべてのセグメント、すべてのチャネルを網羅しようとすると、完成前に力尽きます。まずは主要な1ペルソナ・1シナリオで粗い版を作り、運用しながら精度を上げるのが定石です。

3. 一直線のきれいな流れにしてしまう

前述のとおり、実際の顧客は認知と検討を行き来します。離脱、比較のための出戻り、長期の検討停止といった「きれいでない動き」を織り込むほど、実態に近いマップになります。

4. 担当者1人で作ってしまう

マップの価値の半分は「作る過程で部門横断の認識が揃うこと」にあります。マーケティング、営業、カスタマーサクセス、開発など複数部門を巻き込んだワークショップ形式で作ると、認識のズレそのものが発見になります。

5. 作って終わりにする

市場環境も顧客行動も変わります。半年〜1年ごと、あるいは主要施策の実施後にレビューし、データに基づいて更新する運用ルールを決めておきましょう。

6. 施策とKPIに接続していない

課題・施策・KPIの行がないマップは、鑑賞用の資料になります。マップの最終行は必ず「次に何をするか」で終わらせてください。

まとめ

カスタマージャーニーは、顧客が商品・サービスを認知してから購入・利用・推奨に至るまでの体験を「旅」に見立てて整理する考え方です。本記事の要点を整理します。

  • カスタマージャーニーは、行動・思考・感情・タッチポイントをセットで捉えるフレームワーク
  • AIDMA、AISAS、5Aといった購買行動モデルの系譜の上にあり、自社に合わせてフェーズを定義できる点が特徴
  • 「古い」と言われる背景にはパルス型消費やバタフライ・サーキットのような非直線的な行動があるが、代表的なパターンを組織で共有する共通言語としての価値は残る
  • マップの型はタイムライン型・ホイール型・スペース型があり、目的で使い分ける
  • 作成手順は、ゴールとペルソナの設定→フェーズとタッチポイントの整理→行動・思考・感情の可視化→施策とKPIへの落とし込み
  • BtoBでは意思決定者が複数人(平均6〜10人程度とされる)で検討期間も長く、営業と直接接触する時間は全体の2割弱にとどまるため、営業が見えない時間を埋める情報設計が鍵になる
  • ペルソナは「誰か」、ジャーニーは「どう動くか」。ファネルは企業視点の定量、ジャーニーは顧客視点の質的理解であり、両者は補完関係にある
  • よくある失敗は、憶測で作る・作り込みすぎる・一直線に描く・1人で作る・更新しない・施策に接続しない、の6点

カスタマージャーニーマップは、完璧な予測図を作るためのものではありません。顧客理解の仮説を組織で共有し、検証と改善を回していくための出発点として位置づけることが、成果につなげるうえで最も重要な視点といえます。

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