オウンドメディア成功事例「サイボウズ式」に学ぶ、企業ブランディングの作り方

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「オウンドメディアを立ち上げたものの、PVが思うように伸びない」「そもそも自社は何を発信すればいいのか分からない」——BtoBマーケティングに取り組む担当者の多くが、こうした悩みを抱えています。製品の宣伝を並べても読まれず、かといって役立つ情報を出しても成果につながっているのか手応えがない。そんなとき、指針になるのが国内オウンドメディアの代表的な成功事例「サイボウズ式」です。本記事では、サイボウズ式の運営スタイルを事実ベースで読み解き、自社に活かせるポイントと、そのまま真似してはいけない注意点まで整理します。

「サイボウズ式」とは?国内屈指のオウンドメディア成功事例

サイボウズ株式会社が運営するメディアの概要とコンセプト

サイボウズ式は、グループウェアを開発・提供するサイボウズ株式会社が2012年5月に立ち上げたオウンドメディアです。サイトのコンセプトは「新しい価値を生み出すチームのメディア」。運営元であるサイボウズは、1997年に愛媛県松山市で青野慶久氏らが創業したソフトウェア企業で、現在は「kintone(キントーン)」「サイボウズ Office」「Garoon」「メールワイズ」といった製品を展開し、代表取締役社長を青野慶久氏が務めています。

サイボウズ式が生まれた2012年当時、日本ではまだ「オウンドメディア」という言葉すら浸透していませんでした。企業が自社の製品ではなく思想や働き方を語るメディアは珍しく、サイボウズ式はその草分け的存在として、企業・広報担当者の間で今も繰り返し紹介されています。電通報、Lidea(ライオン)、経理プラスといった他社の成功事例と並び、オウンドメディアのお手本として名前が挙がる常連です。

扱うテーマと読者に支持される理由

サイボウズ式が発信するテーマは、「チームワーク」「新しい働き方」「多様性」の3つを軸にしています。これはサイボウズが企業理念として掲げる「チームワークあふれる社会を創る」というビジョンに沿ったものです。組織論、働き方、ジェンダー、育児、防災×ITなど、一見すると製品とは直接関係のない幅広いテーマを、特集や連載として展開している点が大きな特徴です。

コンテンツはイラストを活用した親しみやすい表現や、企業で働く「中の人」の等身大のエピソードで構成され、読者に近い視点で語られます。製品を売り込まないからこそ、読者に警戒されず、共感とともに読まれる。この姿勢が、多くの読者からの支持と、SNSでの拡散を生んでいます。書籍レーベル「サイボウズ式ブックス」による出版展開も行われており、Webメディアの枠を越えてブランドが広がっています。

「サイボウズ式」はなぜ生まれたのか?立ち上げの経緯

「生活者との新しい接点を作る」という発想の原点

サイボウズ式の立ち上げには、初代編集長を務めた大槻幸夫氏が深く関わっています。大槻氏は「コンテンツがいろいろなところに共有されていく今の時代だからこそ、自分たちでコンテンツを作っていく必要がある」という問題意識から、オウンドメディアという手法に着目したと語っています。

グループウェアという製品は、多くの生活者にとって日常的に意識するものではありません。だからこそ「サイボウズという会社を知らない人に、サイボウズを知ってもらう」という、認知の入り口を作ることが目的に据えられました。製品広告では届かない層に、価値観や思想を通じて接点を持つ——これがサイボウズ式の出発点です。

試行錯誤の末に「働き方」というテーマに行き着くまで

注目したいのは、サイボウズ式が最初から今の形だったわけではないという点です。立ち上げ当初はさまざまなテーマの記事を試し、読者の反響を見ながら、少しずつ発信の軸を絞り込んでいきました。その過程で強い共感を得られたのが「働き方」というテーマでした。

サイボウズ自身が離職率の高さという課題を乗り越え、働き方改革に取り組んできた企業であることも、このテーマとの相性を高めました。自社が本気で向き合っている課題だからこそ、借り物ではないリアルなコンテンツが生まれ、読者の心に届いたのです。テーマは机上で決めるものではなく、発信と反響を繰り返す中で見つけていく——この試行錯誤のプロセスこそ、多くの企業が見落としがちな学びです。

PVを追わない「サイボウズ式」の効果測定の考え方

SNSの反響・コメントを重視する理由

一般的なオウンドメディアの多くは、PV(ページビュー)やセッション数を主要な指標に据えます。しかしサイボウズ式は、PV数を最優先の目的にしていないことで知られています。大槻氏は、PV数を評価のポイントにするのではなく、「自分たちの中にあるものを外に出していく、そういうメディアでありたい」という姿勢を大切にしていると語っています。

代わりに重視されているのが、SNS(特にTwitter/X)での反響やエゴサーチによる読者の声、記事へのコメントといった定性的な手応えです。数字の大小ではなく、「誰が、どんな思いで反応してくれたか」を丁寧に見る。この考え方は、共感を軸に据えるサイボウズ式ならではの効果測定と言えます。以下の表に、一般的なオウンドメディアとサイボウズ式のアプローチの違いを整理します。

観点 一般的なオウンドメディア サイボウズ式のアプローチ
主要指標 PV・セッション・CV数 SNSの反響、コメント、言及の質
目的 リード獲得・売上への直接貢献 認知獲得・共感の醸成
時間軸 短期での成果を求めがち 長く続けることで価値が出ると考える
コンテンツ 製品・サービス訴求が中心 働き方・多様性など思想の発信が中心
更新スタイル 更新頻度をKPI化しやすい 固定の更新ルールを設けない

社内の理解を得るために大事にしたポイント

オウンドメディアは成果が見えにくく、社内で「これは本当に意味があるのか」と問われがちです。サイボウズ式が長く続けられた背景には、社長を含むチーム全体で目的を共有できていたことがあります。「サイボウズを知らない人に知ってもらい、コミュニケーションをする」という共通認識が定着していたため、短期的な売上に直結しなくても運営を続けられたのです。

売上増を目的にした施策で短期的に成果を出すのは難しく、メディアは長く運営し続けることでこそ価値と成果が出る——この考え方が経営層に理解されていたことが、大きな支えになりました。オウンドメディアの存在意義を社内に浸透させるうえで、トップの理解がいかに重要かを示す好例です。

「サイボウズ式」が企業にもたらした効果

採用・売上・取材誘致など多方面への波及効果

「売上を目的にしない」と言っても、サイボウズ式が何ももたらさなかったわけではありません。むしろ、直接的な売上を追わなかったからこそ、結果として多方面に波及効果が生まれました。

特に顕著なのが採用への影響です。ある年には、採用者90人のうち30人がサイボウズ式をきっかけに入社したと紹介されています。働き方や考え方を淡々と語る「売り込まない読み物」だからこそ、かえって「この会社は本物だ」と信頼され、価値観に共感した人材が応募してくる——採用ブランディングの好循環が生まれたのです。立ち上げ最初の1年で月間3万人の新規訪問者という当初目標を達成し、4年間で500本規模の記事を積み上げたという実績も、こうした成果を支えました。

社長の発言が社内外に浸透したブランディング効果

もう一つの効果が、企業の姿勢や思想が社内外に浸透するブランディング効果です。メディアを通じて発信された働き方への考え方や経営の姿勢が、露出を重ねるうちに社外の認知として定着していきました。「チームワーク=サイボウズ」と第一想起してもらえるようになることを狙い、さまざまな切り口で発信を続けた成果です。

採用、認知度向上、取材や登壇の誘致といった形で、サイボウズ式は製品広告とは異なる回路で企業価値を高めました。「売上を求めなければ、かえって売上につながる」という、オウンドメディアの逆説的な効用を体現した事例として語られています。

「サイボウズ式」から学べる、自社オウンドメディア運営のポイント

更新頻度よりも「読まれる」ことを優先する姿勢

サイボウズ式は、更新頻度に固定のルールを設けていないと言われています。多くの企業が「週◯本」といった本数ノルマに縛られがちなのに対し、サイボウズ式は本数よりも「読まれる価値のある記事かどうか」を優先しています。量をこなすことが目的化すると、コンテンツの質は下がり、読者は離れていきます。まず読者にとっての価値を起点に考える——この順序が重要です。

企業の”中の人”の想いを発信するコンテンツづくり

サイボウズ式のコンテンツが支持される理由は、製品スペックではなく、そこで働く人の想いや、企業がリアルに向き合う課題が語られているからです。自社が本気で取り組んでいるテーマ、乗り越えてきた失敗、社員の生の声——こうした一次情報は、他社が簡単に真似できない独自の資産になります。マーケティングの施策として外から借りてきた話題ではなく、社内にある「まだ言葉になっていない価値」を掘り起こすことが、共感を生むコンテンツづくりの起点です。

自社に置き換えて考える際の注意点

一方で、サイボウズ式を安易に真似することには注意が必要です。冷静に見ておくべきポイントを整理します。

  • 長年の投資の上に成り立っている:サイボウズ式は2012年の立ち上げから10年以上、継続的に運営されてきました。今の成果は、短期間で得られたものではなく、成果が見えにくい時期を耐え抜いた積み重ねの結果です。
  • 特殊な組織文化が土台にある:働き方改革に本気で取り組み、多様性を重んじるサイボウズだからこそ、語るべき一次情報がありました。同じテーマを持たない企業が形だけ模倣しても、コンテンツに説得力は宿りません。
  • 経営層の理解という前提:PVや売上を直接のKPIにしない運営は、トップが目的を理解し、長期の投資として腹をくくっているからこそ可能です。この前提が欠けたまま「PVを追わない」だけを真似ると、社内で存在意義を失いかねません。
  • BtoBでは成果指標の設計も必要:認知や共感は重要ですが、事業として続けるには、リードや商談への貢献をどう捉えるかという指標設計も欠かせません。サイボウズ式の思想を尊重しつつ、自社に合った測定の枠組みを持つことが現実的です。

つまり、真似すべきは表面的な「PVを追わない」という手法ではなく、「自社が本気で語れるテーマを見つけ、長期目線で読者との信頼を築く」という姿勢そのものです。

まとめ

サイボウズ式は、2012年の立ち上げ以来、PVや短期の売上ではなくSNSの反響や共感を軸に据え、「チームワーク」「働き方」「多様性」を発信し続けてきた国内屈指のオウンドメディア成功事例です。その成果は、採用ブランディングや認知度向上といった形で多方面に波及しました。一方で、それは長年の投資と、本気で向き合うテーマ、そして経営層の理解という土台の上に成り立っています。自社に活かす際は、手法をコピーするのではなく、「自社ならではの価値を、長期目線で誠実に発信する」という本質を持ち帰ることが大切です。

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